札幌地方裁判所 昭和55年(む)940号 決定 1980年12月09日
主文
本件保釈取消請求を棄却する。
理由
一、本件保釈取消請求の趣旨及び理由は、検察官提出の保釈取消請求書及び保釈取消請求の補充理由申立書記載のとおりであるから、これを引用する。
二、当裁判所の判断
所論は、要するに、被告人は肝硬変症等により出廷不能である旨の診断書を提出して本件第一四乃至第一七回公判期日に各出頭しなかったものであるが、被告人には屡々診療以外の目的でその入院先を外出するなど診断書記載の「絶対安静」と相容れない言動が認められるので、右各公判期日への不出頭は正当な理由によるものとは認め難く、被告人には刑訴法九六条一項一号に該当する事由がある、と言うにある。そこで判断するに、一件記録によれば、成程、被告人は、昭和五四年一二月一三日午前一〇時、昭和五五年四月二四日午前一〇時、同年五月二二日午前一一時及び同年六月二四日午前一一時各指定の本件各公判期日に、いずれも召喚を受けて出頭しなかったものであるが、右各公判期日については、いずれも予め弁護人から、公判期日外において、その変更申請がなされ、かつ、被告人が肝硬変症等により該期日に出頭できない旨の医師作成に係る法定の診断書が差し出されたため、当裁判所において、検察官提出の資料及び当裁判所においてなした調査結果等をも併せ検討の上、予定された当該公判期日に法廷で、当該公判期日変更申請をいずれもやむを得ないもの、即ち、被告人の当該公判期日への不出頭を正当な理由があるものと認めて当該各公判期日を変更する決定をしたものであって、右はいずれも被告人が正当な理由がなく出頭しなかったことを事由に公判期日を変更したものではない。してみれば、弁護人において提出した医師の診断書等が内容虚偽であるとか、或は、被告人が公判期日への出頭を逃れるため重病を仮装した等の事実が後日新たに判明するなど特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、裁判所が一旦前記各公判期日変更決定の際に検討した資料、又は、右各公判期日変更決定後の被告人の言動に関して収集された資料等を疎明資料として、遡って、被告人の右各公判期日における不出頭には正当な理由がなかったものであるとして保釈を取消すことはできないものと言わなければならないところ、一件記録を精査しても、弁護人提出の前記各診断書並びに検察官提出の資料中の担当医師の意見等が内容虚偽であるとか、被告人が重病を仮装した等の事実を認めるに足る資料はなく、又、被告人が数回入院先の診療所を無断で外出する等必ずしも医師の指示に従った行動をとっていなかったことがあったとしても、被告人の右無断外出等が直接的にその病状を悪化させ、そのため前記各公判期日への出頭を不可能ならしめたと認めるに足る資料等も存在しない。してみれば、事後的にも、被告人の前記各公判期日における不出頭を正当な理由がなかったものと認めることはできない。
三、よって、検察官の本件保釈取消請求は理由がないので、これを棄却する。
(裁判長裁判官 生島三則 裁判官 佐藤學 裁判官 石山容示)
<以下省略>